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栄で味わう
元祖味噌カツ丼

トロトロの卵と濃厚な八丁味噌の奇跡。栄の路地裏「味処 叶」の元祖・味噌カツ丼が美味すぎる

栄の路地裏で出会う至福。元祖「味処 叶」の味噌カツ丼が教えてくれる本物の名古屋名古屋・栄。華やかな百貨店や最新の商業施設が立ち並び、絶え間なく流行が入れ替わるこの街。そんな喧騒のすぐ裏側に、時が止まったかのような不思議な一角があります。ふと足を止めて、狭い路地裏へ。そこに、昭和24年の創業から変わらぬ佇まいで、誇り高く暖簾を掲げる名店「味処 叶(あじどころ かのう)」があります。ここを訪れるということは、単に空腹を満たすためだけではありません。

 

名古屋めしの象徴とも言える「味噌カツ」の、その源流に触れ、100年の歴史が煮込まれた「魂」をいただくという特別な体験を意味するのです。正直なところ、ここは観光ガイドの表紙を飾るような「お洒落で映える」店ではありません。でも、お店の半径10メートル以内に近づいた瞬間、鼻腔をくすぐる濃厚な味噌の香ばしい匂い。これだけで、これから始まる食の儀式への期待値が、一気に最高潮に達します。戦後の混乱から生まれた、情熱の「煮込み」暖簾をくぐると、そこには昭和の活気がそのまま真空パックされたような、どこか懐かしく温かい空間が広がっています。

 

まず知っておいてほしいのが、ここの味噌カツは、私たちが普段目にする「揚げたカツにタレをかける」スタイルとは一線を画しているということ。創業者の大坪健庫氏が、戦後の物資が乏しい時代に「冷めても美味しく、ボリュームのあるものを」と、天丼をヒントにカツを味噌で煮込むスタイルを考案したのが始まりです。この「煮込む」という一手間こそが、叶が元祖として君臨し続ける所以なのです。カウンターに腰を下ろすと、目の前で次々とカツが揚げられ、漆黒の秘伝味噌だれがたっぷり入った大鍋へと投入されていく様子が目に入ります。「グツグツ」という音と共に、カツの衣が味噌をたっぷりと吸い込み、飴色に染まっていく。そのライブ感溢れる光景を眺めているだけで、もうお腹の虫が鳴り止みません。

 

蓋を開けた瞬間、常識は塗り替えられる今回のお目当ては、もちろん不動の看板メニュー「元祖 味噌カツ丼」。運ばれてきた丼。そのずっしりとした重みを感じながら蓋をそっと開けると、そこには驚愕の光景が広がっています。真っ黒、と言っても差し支えないほど深い色をしたカツ。そして、その中央に神々しく鎮座する、プルプルの半熟卵。このビジュアルのインパクトだけで、すでに完敗です。まずは、カツを一齧りしてみてください。驚くのは、その「一体感」です。衣が味噌をしっかりと吸い込んでいるのに、中の豚肉は驚くほどジューシーで柔らかい。八丁味噌をベースにした秘伝のタレは、決して甘すぎることなく、大豆の深みとわずかな渋み、そして圧倒的なコクが調和しています。

 

そして、いよいよ物語はクライマックスへ。中央の半熟卵に、そっと箸を入れます。パチンと弾けた皮から、トロリと溢れ出した黄金色の黄身。それが漆黒の味噌だれと混ざり合い、カツの断面を優しくコーティングしていく。この「味噌と卵の奇跡の融合」は、もはや一つの芸術作品。濃厚な味噌に卵のまろやかさが加わり、それがタレを吸った白いご飯に染み込んでいく。もはや箸を動かす手が止まりません。

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正直、これほどまでに「白米が足りない!」と切実に感じさせてくれる丼に、私は他に心当たりがありません。最後に:栄の夜風に吹かれながら店内では、ベテランの店員さんたちがキビキビと動き、それでいて「今日はどちらから?」と気さくに声をかけてくれる温かさがあります。そんな空気感も含めて、ここでの食事は「名古屋という街の記憶」をそのまま体内で受け止めるような、心地よい重みがあります。お洒落なイタリアンや賑やかな居酒屋チェーンも良い。でも、たまには自分をリセットするために、こんな歴史の重みと職人の執念が詰まった路地裏へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

一杯の丼の中に凝縮された、100年の情熱。お会計を済ませて店を出たとき、口の中に残る味噌の余韻を感じながら、いつもより少しだけ名古屋という街が好きになっている自分に気づくはずです。栄の喧騒に戻る一歩が、少しだけ誇らしく、そして力強くなる。味処 叶の暖簾の先には、そんな素敵な魔法が、今も変わらず煮え滾っています。

​名古屋ごちそう横丁

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